大和歌曲 「万葉集」より 柿本人麻呂, 「東の野に」 Man’yo-shu, Kakinomotonohitomaro
東の野に 炎の立つ見えて
かえり見すれば 月傾きぬ
冬の寒空 枯れた狩場の宿
懐かしい人なく 眠れぬ夜を越え
凍てつくすすき野原で 東の果ての空
あけぼのの光 赤く燃え
暗い夜を打ち払う
昇り来る日の神
天を照らし 地を照らす
振り返れば西の空
沈みゆく白い月
あまねくこの世を照らす 日の皇子
悠久のめぐみとやすらぎ
新しい時代のはじまり
豊かなるこの国よ
解説
東の野に
この歌は、十二月の寒い狩場に、持統天皇一行が訪れたときに、同行した柿本人麻呂が作った歌です。当時、次の天皇とされていた草壁皇子が若くして亡くなったため、母の持統天皇が即位して、孫の軽皇子の成長を待つという状況でした。東から昇る朝日は単なる太陽ではなく、後に世を統べる天皇となる軽皇子を意味し、同時に沈みゆく月は、亡くなった草壁皇子を偲んでいるとされています。
作曲時には、昇る朝日に勢いを与えるメロディラインを意識し、冷たい冬の朝と、朝日の力強さのコントラストを描きました。